STORY

彼女は「タスケテ」と叫ぶ。
しかし、彼女の手を取る者はいない。

彼女は「スクッテ」と叫ぶ。
しかし、彼女の声を聞く者はいない。

彼女は「シアワセニナリタイ」と叫ぶ。
しかし、彼女を気に掛ける者はいない。

彼女は何も叫ばない。
しかし、運命が何かを叫んでいた。

Frederica Bernkastel〜ver.Nozomi Kuzusi〜




目が覚めると、そこは昭和58年6月の雛見沢だった。
少女はふと小さなため息をついた。
また再び、出口なき惨劇の迷路で踊ることになるのであろうか。
何十回、何千回と繰り返してきた…あの血塗られた運命を。
疑心暗鬼が木霊し、疑いの眼差しが飛び交い、そして終幕の時が来る。
いつも変わる事のない「死」という終末。

何度諦めかけた事だろう。
「何をしても無駄だ」「運命には逆らえない」と。
何度嘆いた事だろう。
「どうせ誰にもわからない」「どうせ誰にも救えやしない」と。

私は、この出口なき惨劇を踊るためだけに生きるのだろうか。
たった数週間の何も変わらない日々を無理矢理にでも笑って、まるで楽しんでいるかのように装って。
そんなの、ごめんだ。

もういっそ、こんな世界から消えてしまおうか。
そう思った時だった。
「彼」が定められた運命に打ち勝ち、私に奇跡を見せてくれた。
打ちひしがれていた私に優しく手を差し伸べてくれた。

そして「運命なんて金魚すくいの網と同じ」
笑いながら、彼はそう言った。

そうだ。
諦めたりするものか。
屈したりするものか。

「諦めない意思」彼が教えてくれたから。
「恐れない強さ」彼女が教えてくれたから。
「戦う勇気」仲間が教えてくれたから。

もう一度。
あと、一度だけ…この荊の運命と戦おう。
例え心を切り刻まれても、翼を折られたとしても。
何度でも、立ち上がろう。私は、独りなんかじゃない。

信じよう、己を。
信じよう、未来を。
信じよう、仲間を。

私の望はひとつだけ。
「ただ、シアワセに生きたい」
そのための、最後の勝負よ。
必ず、勝ってみせる。

少女は再び、歩き出した。惨劇の舞台へと。


ねぇ、あなた。
……そう、あなたよ。
あなたの望は、何ですか?


ひぐらしのく頃に 望し編。